第33回日本微小脳神経外科解剖研究会
					The 33rd Annual Meeting of Japanese Society for Microneurosurgical Anatomy

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会長挨拶

第33回の日本微小脳神経外科解剖研究会を開催させていただく東京都立神経病院の谷口真です。もう昔の事ですが、大学病院での研修も1年を過ぎて、地方の関連病院に異動するほんの数日前のこと、当時の高倉公朋教授室に突然呼ばれ、「Rohton 先生のところに行かないか?」と言われたのを覚えております。まだRohton 先生がどんな方なのかはもちろん知らず、その場でJournal of Neurosurgery に載っていた医局の先輩、小野先生の論文 (Microsurgical anatomy of the region of the tentorial incisura, J Neurosurg 60:365-99, 1984)を見せていただいたものの、まだそれがどのくらい重要なお仕事なのかすら当時の私には猫に小判。そもそもJNSって何?しかも、どうして若造の私がと伺ったら、「君は絵がうまいから」ってそんな・・・。そもそも当時は生意気盛りで、このMRI時代に外科医が何で今さら解剖学?程度の認識しか持ち合わせていなかった上、重症の患者さんを前にテキパキと指示を出し、気管内挿管したり、中心静脈ラインを確保したりする戦うお医者さんの方がよっぽど魅力的に思えていた頃で、結局この留学話はお断りした事を覚えております。今考えればずいぶんともったいない話。こういう経緯もあり、自分がまさかそれから35年もたってその流れをくむ本会のお世話をさせていた頂く事になろうとは夢にも思いませんでした。

当時の私に絶対的に欠けていた認識、外科解剖学の重要性については、私自身その後の35年の脳外科医生活で痛いほど思い知らされました。どんな外科手術にもあてはまる事ですが、手術を最低侵襲で行うためには、その操作に必要な最低限のスペースを最大限に活用して作業する必要があります。ただ、このように視界が限られた空間での作業は、濃霧の中の航海に似たものがあります。そのすぐ向こうに何が潜んでいるのかわからない。手術用顕微鏡の導入は、術野を明るく大きく見せることで手術の安全に寄与はしましたが、結局の所、術野のすぐ裏に隠れている危険は見せてくれません。近年は、画像誘導など、全体を鳥瞰図的に見せる手法が進歩してきておりますが、これとて画像診断機器の最大分解能を超える情報を提供してくれるわけではありません。ましてやその部分が実際にはどんな働きをしているかに至っては・・。術中モニタリングや tractography も魅力的ですが、それが見せてくれるのも多彩な脳の機能のほんの一部。ひとたび病変が出来ると脳の中では、画像に写っているよりもはるかにたくさんの出来事が起こっている。例えば光学顕微鏡で腫瘍の育ち方をつぶさに見ると、腫瘍細胞の一つ一つが増えていくにあたって周囲にある血管、軟膜、神経組織などの構造物を時には避け、また時には軟膜の小さな孔を利用してより自由で広い空間であるクモ膜下腔に新たな天地を求めて突入していく様子がわかります。まさに腫瘍の細胞一つ一つにも自己の生存と子孫繁栄のための生き様の様なものがある。現在ある手術支援手段だけではこの様な病変の生き生きした情報は術者に伝わっては来ません。

こういうことが特に問題となるのは脳の深部病変。深部にアプローチする際には、その病変の位置を正確に理解し、そこへどのような到達ルートが考えられ、それぞれにどのようなrisk benefit balanceが有るのかについて充分知悉していることが脳外科医の基礎戦闘力になります。脳外科医が戯れ言に自分の事を多分に自虐的に「のうそとか」と称することがありますが、たしかに脳神経外科の扱う病変の大半は、脳の表面に存在するか、せいぜい菲薄化した軟膜の直下にあり、その摘出作業にあたり脳実質の破壊が問題となるものはそれほど多くありません。一方深部に位置する病変では、常にアプローチによって失うものと得るもののtrade-off の関係を念頭におく必要があります。今回は、誰もが治療に迷うような脳深部の病変へのさまざまなアプローチの知識を整理したいと考えております。具体的症例を提示し、もし、先生方の施設に同じような患者さんが現れたらどういう作戦を立てるかついて皆様の御意見を賜れればと思います。もちろん、例年通り一般演題も募集いたしますので奮って御参加をお待ちしております。

今回は、会場を東京大学の本郷キャンパス内赤門にほど近い伊藤国際ホールに確保しました。この辺りは、本当は銀杏の葉の色づいたこの文章を書いている晩秋が一番見頃ですが、会を開催する3月も新芽が始まり、大学では新学期を迎える期待感がそこはかとない高揚感を漂わせる魅力のある時期のひとつです。また、こういうぽっかりと空が広くみえる大きな空間そのものが、今の東京の都心では、なかなか得難い大きな財産です。こういう空気の中で一時、大学生にもどった気分で勉強するのも悪くないかと思います。皆様の御参加をお待ち申し上げております。

平成30年12月

第33回日本微小脳神経外科解剖研究会
会長 谷口 真
東京都立神経病院

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